「フィギュア」の意味は「塗装済み完成品の模型」とは限らない。意味の変遷。

「フィギュア」という言葉は、いつの間にか完成品の模型全般を指すようになっているように思えます。人間であろうがロボットだろうが何だろうが、塗装済みの完成品なら何でもフィギュアって呼ばれているような感じ。

で、これが何か引っかかるというかそうじゃねえよっていう気持ちになる事が私はあります。
「フィギュア」って昔はもっと狭い意味で使われていましたし、今でも狭い意味で使う場合はあります。

度々他の記事で書いてますが、私はそもそもプラモデルなどを組むのも塗装するのもハッキリ言って好きではないです。が、模型を趣味として30年以上も楽しんでいる人間なので、「フィギュア」ってどんな意味だったか?どんな風に意味が変わっていったのかについて書いてみました。

個人的な経験からの見解ですので、「それは違うと思う」という意見もあるかとは思います。
特に80年代後半よりも前の時代については分からないので、私よりも上の年代の方から見ると「もっと昔にこういうのがあったので・・・」みたいな部分もあるかもしれません。

 

 

 

スケールモデルの付属品・アクセサリーとしてのフィギュア(80年代)

フィギュアって言葉が最も昔から使われているのってたぶんスケールモデルだと思うんですよね。
特に戦車などのAFVや軍用の飛行機、カーモデルなどのジャンル。
AFVならその搭乗員や周辺に展開する歩兵、飛行機ならパイロットや整備員、カーモデルならドライバーやピットクルー等の人間の模型が付属だったりアクセサリーとして別売りであったりする。
車両や飛行機といったメカがメインで、それに付随する人間の模型をフィギュアと呼称する。
そんな印象でした。

小さいサイズの人間の”模型”=フィギュアという感じ

この当時の「フィギュア」と呼ぶか呼ばないかの定義ってどんな感じだったのかと思い起こすに、まず原則人間の模型
人間以外の動物も一応含まれていたような気はするのですが、サイズの大きいものは含まれないというか、メインの模型は含まれないとでも言えば良いですかね。そんな感じかな・・・。

タミヤのAFVのプラモデルシリーズ「ミリタリーミニチュア(MM)」で動物のセットってありますよね。調べてみたら、1984年の発売だったようです。

ミリタリーディオラマの使うための動物の模型のセットなんですが、これは80年代の頃の感覚でもフィギュアと呼んでいたような・・どうだったかな?
同じタミヤの1/35スケールで恐竜のプラモデルがありますけど、こっちは今も昔もフィギュアとは呼ばれていない気がします。

 

玩具(トイ)は”模型”じゃないという感覚

じゃあ当時、このタミヤのプラモデル以外で人間や動物の模型は無かったのかというと、たぶんあったと思います。
恐竜とか動物のソフビ人形みたいなものはあったと思いますし、リカちゃん人形なんて当時から今に至るまで存在していますよね。
そういったものはフィギュアとは呼ばれなかったのかというと、全く一切フィギュアとは呼ばれていなかったと記憶しています。
何というか、「フィギュア」というのは模型だけの用語で、玩具(トイ)は模型ではないという感じでした。いや、プラモデルとかの模型だって玩具の一つのジャンルだろという話になるんですけど(笑)

まず当時のソフビ人形などの玩具って造形が緻密ではなかった。ゴジラとかの怪獣のソフビ人形なんてエッジもダルいしそもそもプロポーションも全然違う。
あと玩具は子供が触って遊ぶものでディスプレイモデルではないし、自分で組み立てるわけでも塗装するわけでもないからという感覚もあったような気がします。

 

 

 

ガレージキットのキャラクターフィギュアの登場(80年代終わり~90年代初頭)

80年代後半にB-CLUBなどのガレージキットが多く発売されるようになり、プラモデルや玩具と言った大量生産前提の商品形態では商品化出来ないようなマニア向けの立体化が行われるようになってきました。

サイズが大きくても人間の模型は「フィギュア」になった

この頃から、アニメのキャラクター等の人物がレジン製のガレージキットで多く商品化されるようになってきました。スケールは1/8スケール辺りが多かったような記憶がありますが、もっと小さいスケールのものもあり。ただ小さいとは言っても1/35とか1/24よりは遥かに大きいサイズです。
これらは当時から「フィギュア」と呼称されていた記憶があります。


90年代頭はストリートファイターIIが大ヒット。完成品フィギュアなんてジャンルが無かったのでレジン製のガレージキットでフィギュアが多数発売されました。

今になって思うと、この時点で「フィギュア」という言葉は意味が拡大されたのかもしれません。
サイズが大きく、それ自体がメインの模型でもフィギュアという言葉を使うようになった。
ただ、人間以外の模型についてはフィギュアとは呼んでいなかったと記憶しています。
ゴジラとかの怪獣はフィギュアとは呼んでいなかった気がしますし、ガンダムなどの人型ロボットもそうですね。
一方で仮面ライダーとかウルトラマンはフィギュアと呼称していたような・・どうだったかな?

スケールモデルの分野で「フィギュア」と呼ばれるのがほぼ人間の模型のみだったので、サイズが大きくなっても「人間の模型ならフィギュア」というのが自然に浸透したのだと思います。
 

 

 

90年代中頃2000年代初めにかけての「塗装済み完成品」の台頭

それまで自分で組み立てる・自分で塗装するが主流だった模型業界に、キャラクターものの完成品フィギュアという商品が登場。また、子供向けの安価なトイだったはずの食玩やカプセルトイに、ハイターゲット向けの企画で塗装済みの商品が登場し、いつしか主流に。
「フィギュア」という言葉が大きく浸透する事になった感があります。

PVC製完成品フィギュアの登場(90年代中頃~終わり)

私の記憶にある限りだと、日本の会社から最初に発売されたPVC製完成品フィギュアはちびーずの神岸あかりとマルチ(ToHeart)の1/6フィギュアだと思います。


模型雑誌の後ろの方のモノクロページ(お店とかメーカーの広告)を見ていて、「え!?こんなのが出るんだ」と驚いたのを覚えています。なにしろ当時はキャラクターのフィギュアなんて高価なレジンキットしかありませんでしたから、それよりもかなり安価で組み立ても塗装も必要ない完成品というのは衝撃だった。
当時友人にToHeartにハマり過ぎておかしくなってしまっていたヤツがいまして(笑)、プラモなんか触った事もないそいつがこのフィギュアを買っていました。実際に見せてもらって「これが完成品なんて良いな」って思ったのを覚えています。

食玩とカプセルトイのクオリティ向上(90年代中頃~終わり)

80年代では食玩やカプセルトイ(ガチャ)は子供向けの安価なトイという位置づけでしたが、90年代終わり頃に急激に変化が起きました。
バンダイのカプセルトイ「HGシリーズ」が1994年開始。(※参考記事:wikipedia)
フルタ製菓の「チョコエッグ」が1999年開始。(※参考記事:wikipedia)
ユージンの「SRシリーズ」が1998年開始。(※参考記事:ガチャガチャラボ)など。

塗装済みが当たり前になり、造形も緻密。子供よりももっと高い年齢層から「安価で小サイズだけど出来の良い模型の完成品」として注目されるようになってきます。
商品化されるキャラクターも、明らかに子供向けではないものも出てきました。(特にユージンのガチャ)。

フィギュアという言葉がよく商品名に使われるように

この頃から食玩やガチャの商品名に「フィギュア」という言葉がよく使われるようになりました。塗装済みでそのまま見られる仕上がり・安価という事もあり、プラモデルなどの模型の知識や経験の無い人も購入されていただろうという点を考えると、「フィギュア」という言葉を世間に浸透させた役割はかなり大きかったのではないかと思います。

スポーン(SPAWN)のフィギュアという衝撃(1994年)


90年代半ば、海外のフィギュアで革命的な出来事が起こり、それが日本にも飛び火しました。
トッド・マクファーレンのアメコミ「スポーン」のフィギュアがそれ。発売は1994年だったようです(※参考記事:CINEMORE)
作者自ら設立した会社「トッド・トイズ(現 マクファーレントイズ)」から発売されたそれは、おもちゃ然とした造形ではなく非常に緻密で、塗装はウォッシングでその造形をしっかりと浮かび上がらせる仕上げ。
子供向けの玩具ではなく大人向けの模型の完成品という趣きでした。

日本でもこれらのフィギュアは販売され、模型屋や玩具店などで結構よく見かけるくらいには入って来ていましたね。
なお海外製の主にブリスターパックに入った商品形態のトイって海外での呼び名が「アクションフィギュア」で、日本でも当時からそう呼ばれていました。
しかしその呼称とは裏腹に大して可動しません。股関や肩、首がパーツの勘合部分で一応回転する程度。あとは良くて肘や膝が曲がって手首が回転するという程度。当時のガンダムのプラモデルと比べて全然話にならないような可動範囲でした。

海洋堂が北斗の拳で完成品フィギュアに進出


調べても時期がはっきり分からなかったのですが、確かスポーンのフィギュアが日本に入ってきた後、1997~1998年くらいかな?
ガレージキットの会社であった海洋堂が北斗の拳のキャラクターを、ブリスターに入った「アクションフィギュア」で商品化。(発売はXEBEC)
ガレージキットの会社が安価な塗装済み完成品を開発するというのは衝撃的でした。
この北斗の拳のフィギュア(後に「北斗の拳199X」と呼称されるようになる。)は、多分に海外のアクションフィギュアを意識した商品のようで、パッケージも何故か英語表記の文字列ばかりのデザインでしたね。
この北斗の拳を皮切りに、ゲッターロボやボトムズといったロボットものも含めてブリスターに入った「アクションフィギュア」という商品形態で塗装済みの完成品を続々と世に出して行きました。

コトブキヤやWAVEなど、他のガレージキットの会社も2000年代に塗装済み完成品を多く発売するようになっていきますが、その先陣を切ったのは海洋堂のアクションフィギュアでした。
当初は海外のアクションフィギュア同様に大して可動しなかったのですが、現在はリボルテックで有名な原型師山口勝久氏の考案による「一軸回転だけど躍動感あるポーズが出来るヤマグチ式可動」を経て、可動箇所も増加・複雑化していきました。

リボルテック以前の海洋堂のアクションフィギュアとしては後期の頃の製品。「電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム」のVR達。
関節は全部一軸ではあるのですが、可動箇所の数は今現在の可動フィギュアに匹敵するくらいの数。

ロボットって「フィギュア」なんだろうか?と当時は感じました

海洋堂からボトムズやゲッターロボ、コトブキヤのフロントミッションなどのロボットものが関節可動のアクションフィギュアとして発売されたのですが、この時関節可動のロボットの完成品模型って「フィギュア」と言うのだろうか?と思ったのを記憶しています。

それまで、ガンダム等のロボットものって基本的にフィギュアとは呼ばなかった。可動のプラモデルでは出来ないようなポーズで固定のガレージキットならたとえロボットであってもフィギュアかなー?とは思っていたのですが、関節可動のロボットの完成品となるとそれはフィギュアという言葉の範疇ではないように当時の私は感じたのです。
 

 

 

完成品フィギュア市場の拡大・可動フィギュアも主流に(2000年以降)

マックスファクトリーから発売された霞(デッドオアアライブ)。
2004年頃の発売だったようです。この頃からPVC製の完成品フィギュアはジャンルとして定着していた感がありました。


グッドスマイルカンパニーが設立されたのが2001年で、最初に完成品フィギュアを発売したのが2004年。最初のねんどろいどが発売されたのが2006年。最初のfigmaが発売されたのが2008年。(※参考記事:wikipedia)

バンダイのガンダムフィックスフィギュレーションが始まったのが2001年(※参考記事:wikipedia)
海洋堂のリボルテックが始まったのが2006年。(※参考記事:wikipedia)
バンダイのS.H.フィギュアーツやROBOT魂が始まったのが2008年。(情報元:S.H.フィギュアーツ公式サイト)
WAVEがPVC完成品フィギュアを発売し始めたのは2005年から。(※情報元:WAVE公式サイト)

海洋堂に続いてWAVEやコトブキヤも商品のメインが完成品へとシフトしていき、1/8スケール~1/6スケールのPVC製塗装済み完成品フィギュアが多数世に出るように。
またfigma、リボルテック、S.H.フィギュアーツ、ROBOT魂などが続々と商品を発売し、関節が可動するフィギュアというのも主流な商品スタイルとなり現在に至ります。

ロボットでも完成品ならフィギュアという感覚に

この頃になると可動フィギュアも商品として主流になってきたせいか、ロボットでも完成品は「フィギュア」に分類する事に私は抵抗が無くなりました(笑)
もし完成品フィギュアが固定ポーズばかりで可動フィギュアが主流にならなかったら、おそらくそうはなっていなかったかなと感じます。

 

 

 

2021年現在の「フィギュア」という言葉の意味(私見)

人物を中心とした模型の塗装済み完成品全般として使われる事が多いというのが私の認識です。

人間以外の動物や人型のロボットも含まれますが、飛行機や自動車、軍用車両や船といった乗り物は基本的には含まれない。ただ、サイズが小さいものだとこれらもフィギュアと呼称される事がある。という感じがします。

自動車の模型は完成品でもフィギュアと呼ばれない

自動車だけは食玩とかカプセルトイのような小さいサイズの模型でもフィギュアと呼ばれるのを見た覚えが無い。おそらく、「ミニカー」がもっと昔から存在するからじゃないかなと思います。

タカラトミーの「トミカ」が日本だと多分一番有名。1970年から続いているそうです。(※情報元:トミカ公式サイト)
ほとんどの世代で男女問わずミニカーという存在を全く知らない人っていないと思います。だから小さい車の模型=ミニカーという認識があるので、後から「フィギュア」という言葉が多く使われるようになっても車の模型はフィギュアとは呼ばれないのではないかと私は思っています。

あと、この記事を書くにあたって調べていて初めて知ったのですが、自動車の競技で「フィギュア」というのがあるそうなんです。(※参考記事:mortorz.jp「純粋な運転技術で勝負する競技「フィギュア」とは?」)
自動車に詳しい人からすると「フィギュアって言ったらあの競技の事になるだろ」と考えて商品名にはフィギュアと付けないのかもしれませんね。私は自動車に詳しいわけではないので本当のところは分かりませんけど。

今でも、完成品じゃない「フィギュア」は存在する

そもそもこの記事を書こうと思ったきっかけが、検索エンジンからのアクセスのキーワード。
googleからどんな検索でアクセスが来たのかを見ていると、

「フィギュア 塗装」「フィギュア 塗料」

というキーワードを時々目にしていたんですよ。

おそらくPVC(塩ビ)にアクリル塗料やエナメル塗料は使ってはいけないという記事へのアクセスだと思います。
先程書いたような、今現在よく使われる意味合いのような「フィギュア」なら大概は材質がPVCなので上記の記事へのアクセスは意味があると思います。

でも、ひょっとすると検索した人が調べたいのはそうじゃないかもしれないなと思ったのです。
ミリタリーものとかの1/35スケールのプラモデルの人物の塗装方法を知りたいのかもしれない。
昔から「フィギュア」という言葉を使ってきたスケールモデルの分野では、今でも当時と(たぶん)変わらない意味で「フィギュア」という言葉は使われています。
「フィギュア」という言葉は年月とともに意味の範囲が変化していきましたが、元々の意味で今でも使われているのです。

「フィギュア」という言葉の意味は、ガレージキットのキャラクターモデルから微妙に変化し始め、主にキャラクターものである塗装済み完成品の市場拡大があったために変化して定着しました。
スケールモデルの分野とは関係の無いところでの変化だったのですから、スケールモデルでは昔のまま意味は変化していない。

つまり、キャラクターもの・スケールもので「フィギュア」という言葉は意味が違うわけですね。

人間や動物以外のものをフィギュアと呼ぶな!!(個人的主張)

記事冒頭の「そうじゃねえよっていう気持ちになる事」の話になるのですが、人間や動物あるいはそれらの形をしたロボット的なもの以外の模型をフィギュアと呼ばれるのが、何かイヤなんですよ。

スケールモデルにほぼ興味無い私がこんな事を言うのもアレなんですが、元々がスケールものでの人物の模型を指す言葉だったので、戦車とか飛行機、艦船などの模型を「フィギュア」と呼ばれるとどうにも鼻に付くんです。

もちろんここまでに書いたように「フィギュア」という言葉の意味は変化していったわけですし、自分よりも若い世代の人なら「基本的に人間の模型」なんていう感覚は持っていなくてもおかしくない。
そうだと分かってはいるのだけど、何か戦車とか飛行機の模型までフィギュアと呼ばれるのは引っかかる。

検索する時はキーワードで絞り込んだ方が良いと思う

私の個人的主張はさておくとして、「フィギュア」という言葉は意味の幅が広くて曖昧なので、何か調べようと検索する時は必要に応じてキーワードを増やして意味を特定した方が良い言葉だと思います。特に塗装とか改造とか工作に関する事はスケールモデルのフィギュアでも完成品のキャラクターものフィギュアでもどちらにも当てはまる事なので。
例えば材質やスケール。「1/35 フィギュア 塗装」「PVC フィギュア 塗装」みたいに。

とはいえ、私も基本的にはおおざっぱに「フィギュア」って言葉を使ってはいます。
例えば先日書いた記事
通販サイト 比較とおすすめ【フィギュアの買い方】

特にスケールや材質を特定するわけでもなくただ「フィギュア」って言葉を記事タイトルに使っています。
上記の記事は完成品フィギュアの話なんですが、特に記事内でも「フィギュア」って言葉を定義する事もしてません。単にフィギュアって言い方でおおよそ通じるだろうと思いますし、スケールモデルのフィギュアについて調べるなら「プラモデル」「1/35」といったキーワードで検索し、「フィギュア 通販」とかそういう検索はしないだろうと思うので。
 

 

 

ここまで意味が拡大した言葉って珍しいかも

模型に関する用語で、ここまで時代の流れで意味が変遷した言葉ってたぶん無い。
ガレージキットだったりその後のPVC完成品だったりと、新しい商品形態が連続して生まれた事による稀有な例なのかもしれませんね。

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